LHH-700は,1991年にPhilipsが発売したCDプレーヤです.定価330,000円.
メカはスイングアーム型のCDM-4メカを採用.DACは1つで2チャネル分の変換ができるDAC7を2基用い,ダブルディファレンシャル構成としています.
この後にPhilipsが出している機種は電源等のnon-NFB化によって,ハイスピード化を推し進めていったそうですが,LHH-700はまだそうなる前の機種です.
これがフロントの写真.つやのないグレーの筐体で,高級オーディオコンポーネントの華やかさとは無縁です(^^;
MarantzのCD-15はライバル機になると思いますが,見た目の華やかさでついついあちらに目を奪われます.Philipsのセパレートコンポーネント型CDプレーヤはもう滅んでしまいましたが,音造りが多くの消費者に理解されなかったことに加えて,見た目の印象も消滅してしまった原因の一つのように思います.
こちらはリアの写真.一番左が光・同軸ディジタル出力.その右がアナログのバランス出力とアンバランス出力.
真ん中にはヒートシンクがついています.
ちょうどPhilips設立100周年記念ということで,こんなのが製品に付属しています.
中はこの通りアルミパネルに刻印された保証書.どうせ保証切れてるし,まあなんとなく資源のムダな感じ.(他のオーナーさんに怒られそう...)
左側がLHH-700のリモコン.右はAVアンプのシステムリモコンですが,かなりの大きさです.
ジョグシャトルが付いていますが,それほど使い勝手はいいわけではないです.ボタンはへこんでいるのでちょっと押しにくいし.
パイオニアのLDプレーヤのリモコンのように,ジョグモードをONにした状態で,シャトルリングを回すと早送り・巻き戻しで,ジョグダイアルを回すと曲を飛ばします.シャトルリングを操作する時にうっかりジョグダイアルに触れてしまうことが多く,せっかく聴きたい場所まで飛ばしたのに,違う曲に飛んでしまうというアクシデントが多発します(泣).
使い勝手ですが,リモコンはともかく,メカの応答はわりと高速で,ディスクを挿入してからTOCの読み取りが終わるのも速く快適です.
ところで,普通のCDプレーヤでは,ポーズボタンを押して一時停止状態になっている時,再生ボタンを押してもポーズボタンを押しても,一時停止状態が解除されてそこから再生を再開するものがほとんどだと思います.
このプレーヤでは,一時停止状態はポーズボタンでしか解除されません.再生ボタンを押すと,Winampのように再生中の曲の先頭に戻ります.これは一時停止状態でも同様で,一時停止状態で再生ボタンを押すと曲の先頭に戻るのみで,一時停止解除されません.これは慣れるまで混乱しそうです.
ちなみに,再生中に前の曲に戻るボタンを押すと,一般的なプレーヤでは1回押しただけでは再生中だった曲の先頭に戻りますが,このプレーヤではその前の曲に戻ります.再生中の曲の先頭に戻るには,再生ボタンを押さなければならないわけです.
試聴条件ですが,アンプはソニー TA-V777ES,スピーカコードはモニターPC コブラ6S,スピーカはPMC TB-2SMは共通になっています.次の2種類の方法を比較試聴しました.いずれもビデオ電源自動OFFの条件です.
TANGE SAKURA INSTRUMENTAL TRACKS (KMCA-22)より“FREE”
LHH-700では,指が弦に触れるなどの附帯音がより生々しく聞こえる.その場の空気感がより伝わってくる感じ.V777ESでのディジタル再生に比べ,アナログ入力は若干ながら音量が大きく聞こえるのだが,だからと言ってV777ESで音量を上げても,単に音が大きくなるだけで,空気感のような微少な表現は同じにならない.
小泉 恒平: チャンス (VIDL-30476)より“チャンス”
V777ESでは,マイクを通して声が伝わってくる感じがかなり感じられるが,LHH-700で再生すると,その場で歌ってるような感覚というのはオーバーだが,マイク録音という感じがとても少ない感じ.声がより近くで聞こえる.
丹下 桜: 未来からのエアメール
(KMCS-7)より“「おやすみなさい」を言う前に”
V777ESでは,声にリバーブが掛かっているのがよくわかる.ステージで歌っているのを離れた座席で聴く感じ.LHH-700では「チャンス」の時同様,間近で歌っているように聞こえる.リバーブ感は少なく,より素のままの声が伝わってくる.
∀ GUNDAM ORIGINAL SOUND TRACKS II: DIANNA & KIHEL
(KICA-481)より“Drum Head”
ドラムロール等,V777ESでは解像度が高く,音の粒立ちがよく聞こえる.好みにもよるだろうが,この研ぎ澄まされた感覚が楽曲の緊迫感と合い,この曲はV777ESの方が向いていると思う.
∀ GUNDAM ORIGINAL SOUND TRACKS II: DIANNA & KIHEL
(KICA-481)より“Triad”
V777ESでは,オーケストラを離れた場所から聴くイメージなのだが,LHH-700ではスピーカの存在感が希薄で,オーケストラの間近で聴く感じ.
Cowboy Bebop: BLUE (VICL-60203)
がらりと趣向を変えてカウビ.“CHICKEN BONE”のようなタイトなビートが曲調を支配するような曲では,やはり立ち上がり・立ち下がりのハイスピードなDACに軍配が上がる.LHH-700は緩く,低域もやや控え目.
ジャズ曲では,やはり全体的にLHH-700よりはV777ESの方が得意なように思うが,曲によってはLHH-700でしっとり聴かせてくれるものもある.
また,V777ESに搭載されているDF1704のフィルタ特性を切り替えてみましたが,音場の広がり感は
DF1704 Sharp Rolloff < LHH-700 < DF1704 Slow Rolloff
という感じです.ただ,この場合の音場の広がりとは横方向には広がりますが,音に囲まれている(surrounded)という感じとは必ずしも結びつきません.
PCM1704を積んだV777ESの音は,音楽表現(sound performance)の端から端までの全貌を,離れて俯瞰から撮った写真に例えられると思います.
それに対しLHH-700の音は,sound performanceのオイシイところを真正面からややクローズアップした,といった感じです.全体の情報量はV777ESにはかないませんが,その場の雰囲気・空気感をよく再現します.
また,LHH-700ではディジタル臭の少ない,なめらかな音が出てきますが,録音やミキシングの良くない,シャカシャカとした曲やちょっと音の歪んだ曲を掛けても,まるで表面のざらざらとした部分を薄く削ぎ落としたかのように,前はただガチャガチャとうるさいだけにしか聞こえなかった曲が,それなりに聴けてしまいます.音量を大きくしても,うるさく聞こえません.
開けたところ.中はバリバリに銅シールドされている.電源トランスはトロイダルコアトランス.
電源部.コンデンサはElna製で,一部だけはBlackGateが用いられている.トランジスタが銅シールドしてあったりする.
DAC部.DAC7 (Philips TDA1547)が2つ見える.重要な部分のコンデンサはグレードの高い物が用いられている(茜色に金字).Elna製だがタイプは何だったか忘れた.
上の直立している基板はディジタル出力回路と,アナログバランス回路.バランス回路はモジュールがメタルシールドされている.
コントローラ部.モトローラっす(笑).